岩田研の出張リポート

Vol.003

GPCR workshop 2013体験記 (12/1-5,2013)

 日に日に暖かくなり、時は既に桜の咲く季節となった4月のこと。花粉症持ちの筆者にとっては全く嬉しくないこの時期に、秘書様から昨年末に参加した GPCR workshop 2013の体験記を執筆するように仰せつかった。しかも、学部学生が興味を持ちそうな程度に学術的でかつ面白い内容にせよとの厳命である。 その要望には全力で応えなければならない。しかし、問題はこのミッションが「当の本人の能力の限界を超えてしまっている」という事である。つまり、 昨日の晩ご飯の内容すら覚えていない凡人である筆者にとって、約5ヶ月前の出来事など覚えているはずもなく、時間の経過とともに加速度的に記憶は曖昧となり、 今やあの時に何をして過ごしたのかが定かではなくなっているのである。と言うか、印象的な事以外は全く覚えていないと言った方が正しい。全てが遅すぎたのである、、、 などと先に言い訳しつつ、現存する記憶の糸を辿りながら覚えている範囲で書き綴ってみたいと思う。

 筆者が参加したGPCR workshop(http://gpcrworkshop.com)とは、米スタンフォード大学のBrian Kobilka博士(2012年にノーベル化学賞をRobert Lefkowitz博士と共同受賞) が、GPCR研究の発展、特に産学の緊密な連携によりGPCRを標的としたより効果的な治療法の開発のために立ち上げた研究会であり、今回で3回目である。 ちなみに筆者は2回目から参加している。場所は毎回、米ハワイのマウイ島にあるHyatt Regency Maui Resort & Spaというリゾートホテルである。  
  今回、筆者らの研究室からは5名が参加した。参加者は、筆者、小林准教授、研究員の寿野氏、宮城氏、大学院生の豊田氏である。余談だが筆者はこの学会でしかハワイに行った ことはない。毎回12月初旬に開催されるが、ハワイであるのでとても暖かい。極寒の京都からしたら天国である。会に参加する白人などは当然のごとく半袖短パンである。 だが安心してはいけない。会場の空調はとんでもなく寒い。日本では考えられないほどの冷房の効き具合である。筆者などは地球温暖化とは一体なんなのだと彼らに問うてみたく なる程である。18℃ないしそれ以下に設定されているであろう会場でも彼らはもちろん半袖短パンである。このような室内において半袖短パンで居られるほど日本人は寒さに強くない。 GPCR workshop ちなみに、前回は当然寒さに震えながらの参加であり、一緒に参加していた知人などは見事に風邪を引いていた。このような教訓を得ている筆者が同じ過ちを繰り返すはずが あろうか?いや、ない (反語)。ハワイへ発つ前日にユニクロでウルトラライトダウン(5700円)を購入しておいた。会場にてそれを羽織ると流石ダウン、寒さなど問題なくなる。 とても快適かつ安心して発表に集中できる。改めて言っておくが、会場はハワイである。筆者はポスター発表を行なったが、ポスター発表者には初日の午後に Poster preview 1 minute presentationsという1分間で自分の発表をアピールする機会が与えられる。筆者は1番目で、もちろんそれを着て壇上にあがった。 ダウンの光沢が会場のライトに反射し眩しい。不慣れな英語でアピールし席に戻ると、横にいた同僚が「後ろの外人があいつはなんであんな格好をしているんだ? と不思議がっていた」と報告してきた。こちらから言わせれば「なんでお前らはこんな寒いのに半袖短パンなんだ?」である。まぁ、なんと言われようと寒いものは寒いのである。 これをお読みの方は覚えておいて頂きたい。あの冷房は日本人には耐えられないということを。

 さて本題に入ろう。
  今回参加したGPCR workshopは、研究者の発表・意見交換の場として非常に有意義であった。得られた情報から今後重要だと思われることをいくつか紹介したい。
  現在までに構造が明らかとなったGPCRはアンタゴニストが結合した不活性型がほとんどである。不活性型といえどもGPCRの構造を明らかにする事は非常に難しいことであり、 創薬等に重要な情報を与えてくれる。しかし、今後はGPCRの細胞内側ドメインに3量体Gタンパク質が結合した構造、つまり細胞外からの情報を細胞内へ伝える活性型の構造を解明する ことが重要になると思われる。また、アロステリックモジュレーターと呼ばれる、リガンド結合部位以外の部位に結合する化合物との構造も明らかとなった。 これはリガンド以外にGPCRの活性制御を考える上で非常に重要だと考えられる。さらにGPCRの活性を抑制するArrestinが結合している構造の最初の例が示された。 加えて、新しい技術であるX線自由電子レーザー(詳しくは1st Ringberg Workshop on Structural Biology with FELs(2/19-22, 2014)参照)を用いていくつかのGPCRの構造が 報告されていた。また、計算科学的手法により、得られた構造から分子の動きをシミュレーションする解析技術は今後重要になってくると思われる。
  今回、GPCR workshopに参加して感じたことは、この分野の発展の凄まじさである。例えるなら、トラック競技においてライバルに追いついたと思ったら実は周回遅れであった・・・という感じである。涙目である。しかし、このworkshopに参加し多くの研究者と議論を交わすことで世界の潮流を肌で感じることができたことは非常に有益であり、 筆者もGPCR研究を担う者のひとりとして構造生物学に新たなパンデミックの引き金をひくべく日々の研究に邁進していきたいと強く思った。

   (2014年4月 浅田 秀基)  

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