岩田研の出張リポート
Vol.002
『細胞と無細胞のあいだ』(3/13-14,2014)
――耳元で何かが鳴っているのが聞こえる。 |
3月13日。その日愛媛大学を訪れたのには訳がある。コムギ胚芽を用いたタンパク質合成技術を学ぶためだ。“コムギ無細胞タンパク質合成技術”は愛媛大学で開発された手法で、澤崎研究室はその家元と言えるだろう。
同伴の児島先生と松山空港で待ち合わせ、松山城の北側に位置する城北キャンパスに着いたのは昼過ぎであった。鉄砲町で路面電車を下車し、西門からキャンパスに入る。普段なら学生で活気ある時間なのだろうが、春休みのためか人の姿をほとんど見ることがなかった。西門から入ってまっすぐ進んだところにプロテオサイエンスセンターがある。およそ10年前に建てられたという建物は、それを囲む工学部の他の建物と比較してひときわ新しかった。プロテオサイエンスセンターでは澤崎先生と竹田先生のご両人に出迎えていただき、早速、研究打ち合わせに入った。
さて、“コムギ無細胞タンパク質合成技術”である。
1. 真核生物の翻訳系を抽出して用いる系なので、真核生物のタンパク質フォールディングに適したゆっくりした速度でタンパク質合成が行なわれる。その結果、収率よく、正しいコンフォメーションで産生できる
2. 合成時にリポソームを添加することで膜タンパク質でも効率よく産生できる
3. 「生き物」を使わないので細胞内代謝やシグナル伝達に影響するようなタンパク質、さらに細胞毒性のあるようなタンパク質でも産生が可能である
などが挙げられる。つまり、我々膜タンパク質を研究するものにとって、“コムギ無細胞タンパク質合成技術”は強力なツールとなり得るということである。
実際に無細胞系でのタンパク質の合成をさせていただくと、簡便な操作でタンパク質を合成・粗精製することができた。CBB染色したゲルにくっきり浮かび上がる標的タンパク質のバンドのきれいさに驚嘆した。この技術と我々の研究室のノウハウを融合させれば、きっといい研究ができるのではないか。そう考えさせるには十分すぎる素晴らしい技術だった。
――眠っている頭をフル回転させたが、事態の把握には時間を要した。無理もない。 早朝からの長距離移動に加えて、愛媛大学であれだけの刺激的な体験をしたのである。 いつもに増して深い眠りについていたはずだ。 なんとかリモコンを探し出しテレビをつけた。 画面には地震発生時の松山放送局の映像が流れている。 白いTシャツの女性が右往左往している様子を見ているうちに、 ようやく自分がおかれている状況を把握した。 震度5弱。震源は伊予灘らしい。 しかし、こういった際どう対処したら良いものか。 着替えてホテルの外にでる、部屋で待機する、もう一度眠りにつく、、、 遅疑逡巡するうちに、気付けば朝を迎えていた。 結局、揺れは1回きりだった。 チェックアウトを済ませホテルを出ると、昨夜、何事もなかったかのように 松山の上空には青空が広がっていた。 |
愛媛大学では、澤崎先生、竹田先生、児島先生との熱いディスカッションに加え、“コムギ無細胞タンパク質合成技術”を体験し今後の研究の発展に大きな自信 (地震) を得た。盛りだくさんで非常に充実した愛媛出張となりました。
最後になりましたが、とても素晴らしい経験をさせていただいた澤崎先生、竹田先生に感謝致します。ありがとうございました。
(2014年4月 椎村 祐樹)
【 お世話になった研究室 】
愛媛大学 プロテオサイエンスセンター
http://www.pros.ehime-u.ac.jp/
愛媛大学 澤崎研究室
http://www.ehime-u.ac.jp/~cellfree/sawasakilab/
久留米大学 児島研究室
http://www.lsi.kurume-u.ac.jp/molecular_genetics/index.html